大判例

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大阪高等裁判所 昭和36年(う)629号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕先ず本件山林と大字桃俣住民との関係について考察すると、原判決挙示の証拠によれば、御杖村は明治二二年旧町村側(明治二一年法律第一号、町村制のことであると思料される)施行の際従来の桃俣、神末、土屋原、菅野の旧四村が合併して御杖村となり右旧四村はそれぞれ御杖村の大字となつたものであるが、当時右各旧四村にいわゆる惣村持ち(挙げて村の所有という意)の財産があり、旧町村制一一四条の規定に基きこれを区の特別財産とする旨の御杖村区会条例が制定されその区有財産を管理処分するための議決機関として各大字ござに区会議員を設け執行機関として御杖村長がこれに当ることとなつた。その後明治三四年桃俣区住民の総意に基き桃俣区有財産管理規約ができ従来区民が擅に区有山林の一部を開墾したり植林したりして使用関係が乱れていたのを整理することとし、区有財産整理委員を置いて土地使用の実情を調査せしめると共に実情に応じ区民に所有権を移転し若しくは地上権を設定すべく整理を進めたが、桃俣区役員と区民の一部との間に感情のもつれがあり、区民四六名から御杖村大字桃俣区(代表者大字桃俣区有財産管理者御杖村長山中三郎)を相手方として奈良地方裁判所に対し入会権確認請求訴訟(同庁明治四四年(ワ)第一一三号)が提起され、大正二年一二月一一日同裁判所において原告勝訴の欠席判決が言渡されこれに対する被告の故障の申立があり原欠席判決維持の判決があり、被告が控訴し、控訴審係属中和解の交渉が行われたところ、被告人等の祖父杣山源治郎外数名が和解に反対したため不調となり一審判決が確定した。(控訴取下によるものか控訴棄却の判決によるものかは証拠上明らかでない)ところで本件山林である大字桃俣字奥山一七七二番地の一の一山林六二七町二反五畝二六歩は右桃俣区有山林(合計約一、四〇〇町歩に上る)の一部であつて右区有山林は旧幕時代幕府の直轄地である天領に属し桃俣住民は往古からの慣習として右区有山林に入会ひ、きのこ、薬草、肥料、牛馬の飼料、屋根葺き用の草を刈り或いは鎌で刈る程度の柴薪木を自家用に採取する限度において使用収益をしていたことが認められる。≪中略≫

そこで桃俣区民の有する右入会権の性質について考察を進めると、山中三郎の検察官に対する供述調書によれば、桃俣区有地には国税、県税、村税が賦課されていたというのであるから、右区有地が国、県又は普通地方公共団体たる御杖村の所有に属しないことは明らかであり、かつ原判決引用の前記山林六二七町二反五畝二六歩の各登記簿抄本には同山林の所有者が大字桃俣の共有財産と表示されていること及び前説示の桃俣区有財産の古来からの沿革、旧町村制(明治二一年法律第一号)一一四条の規定による財産区設立の経緯等を綜合すると、右入会権は旧桃俣村所有の山林にその村の住民が入会つて共同して収益するいわゆる村中入会の性質を帯びていたものであろうと想像される。そうすると右の旧町村制施行の結果入会地を所有していた桃俣村が御杖村内の一大字となり入会地が大字桃俣区の所有となりその住民が依然旧来の入会慣行を持続し入会権を保持しているという関係になつたわけであるから、村中入会という性格は村が大字である区に変つただけでその本質に変化はないものというべきであろう。

原判決は桃俣区民の有する入会権は地役の性質を有するものであると説示しているが、民法二九四条にいわゆる「共有の性質を有せざる入会権」とは入会地盤の所有権者に属しない場合をいうのであるから、(大正九年六月二六日大審院民事連合部判決参照)桃俣区有山林の土地所有権が入会権者である桃俣区民の所有に属するか否かを考察しなければならない。ところで旧徳川幕府時代から明治初年にかけ明治二一年法律第一号町村制施行に至るまでのわが国における村及び村内の部落はその後の法制下における法人とは多少その性質及び観念を異にしその住民と全く分離した別個独立の人格を有するものではなく、その住民全体から成る綜合的団体に外ならず、従つて村又は部落の所有物は同時にその住民の総合体の所有としてその総有に属すると解しうる余地がある。(大正九年一二月一日及び昭和三年一二月二四日の各大審院判決参照)従つて前記のような桃俣区有山林に関する沿革及び入会慣行から察すると右町村制施行の際旧桃俣村所有山林の所有権が桃俣区の共有財産であるとされるに至つたのは、右町村制定のいわゆる財産区が名義上信託的に入会地の所有者となつたものに過ぎずして、従前(右町村制施行前)の私法上の所有関係に根本的な変化が生じたものではなく、従つて本件山林は桃俣区住民の総有に属するものと解しうる可能性があるものといわなければならない。このことは桃俣区が明治二一年法律第一号町村制一一四条及びその後の町村制(明治四四年法律第六九号)一二四条乃至は現行地方自治法各所定の財産区の性格を有し従つて特別地方公共団体としての人格を有するものと解する立場に立つても、前説示のような所有名義の信託と解する限り区住民の総有関係の実体と必ずしも矛盾するものではない。

従つて原判決が桃俣区民の有する入会権は地役の性質を有するものであると断定したのはいささか早計に失するきらいがあるといわなければならない。然しこの点は後記のように判決に影響を及ぼすものではない。

(一) 本件伐採行為が正当な権利行使であるか否かの判断。

そこでさらに進んで被告人彦一、貢若しくは同人等の父杣山虎吉等において原判示第一、第二の伐採行為をする正当な権利を有していたか否かを検討すると、桃俣住民の前記入会権の内容として慣習上認めうる範囲は前説示の限度内のものであつて原判示のような人為的に植裁された五〇年生乃至六〇年生の杉檜の立木を伐採することは入会権者個々の使用収益面における権利内容からしても許容され得ないことは明らかであるし、本件山林の所有権の観点からする権能を考えても、仮に本件山林の土地所有権が桃俣区民の総有に属すると解するとしても総有団体の一員であるに過ぎない右三名等が右団体の許諾乃至は委任に基かずして慣行の範囲外である右のような立木を伐採する権利を有しないこともまた勿論であつて、右三名が本件伐採につき桃俣区の議決機関又は執行機関の許諾又は委任を受けず、却つて区民大多数の反対を押切つて伐採を強行したことは証拠上きわめて明白である。従つて被告人彦一、貢等の原判示第一、第二の伐採行為は森林法一九七条に違反する不法の所為であつて、被告人等の所為が正当な権利行使である旨の各所論の失当であることは疑を容れないところであり、この結論は桃俣区民の入会権が地役の性質を有するに過ぎないものであるかあるいは入会地につき総有権を有するものであるかによつて変るところはなく、仮に原判決が右入会権の性質を誤解したものであるとしても、そのことによつて判決に影響を及ぼすものではない。

(二) 被告人等の本件伐採行為に際しての盗伐の犯意の有無に関する判断。<中略>

(三) 各被害者の地上権の効力及びこれと大字桃俣住民の入会権との関係に関する各所論に対する判断。

第一、第二各事実についての原判決挙示の関係証拠によると、北岡市郎の地上権は、明治三四年前川音吉が桃俣財産区より設定を受けた地上権(存続期間明治三五年一一月より九〇年)を奥田友蔵、前川音吉、谷宇市、前川音吉と移転した後又市郎の先代北岡又一に譲渡され、これを又市郎が相続したもの、田中肇の地上権は、明治三四年枩山竹枩が桃俣財産区より設定を受けた地上権(存続期間立木一代限り)を、永野藤登、上田浅吉、鍵岡正義、同正二両名へと移転した後田中肇に譲されたもの阪本芳太郎の地上権は明治三八年芳太郎の亡祖父阪本平三郎が桃俣財産区より設定を設け芳太郎の亡父安松を経て芳太郎が相続したものであつて、又市郎の地上権については北岡又一の権利取得までの登記、肇の地上権については前記鍵岡両名の権利取得までの登記しかなく芳太郎の地上権については当初設定の時から全く登記がないから、肇及び芳太郎の地上権については一般第三者に対する民事上の対抗力に問題はあるが、山中三郎の検察官に対する供述調書によれば、右各地上権はそれぞれ当初桃俣区有財産整理の方針に基いて区会の決議により管理者たる御杖村長より適法に設定を受けたものと思料され、かつ又市郎、肇の検察官に対する各供述調書、原審証人阪本芳太郎の供述等によれば、設定以来右各地上権の権利者はそれぞれ平穏公然にその権利を行使して植林及びその維持に当つて本件伐採当時に至つたことが認められるから、右又市郎、肇、芳太郎等は第三者の不法な盗伐に対しては刑事法上優にその権利の保護を受くべき資格を有するものであることは明らかである。のみならず前記入会権の用益的内容は前説示のような範囲に限局されたものであつて、杉檜等の立木を伐採するような権能を包含しないものであるから、被告人等の本件伐採行為が右三名の権利を侵害したものと解すべきことは当然である。各所論は財産区の役員の地上権設定行為及び地上権者の権利行使が入会権を侵害したというが、往古からの慣行による入会が永久不変のものとして住民の団体たる区会の意思に基いてもなんらの制約をも加えることができないものとは解しがたく、従つて区有財産の管理処分の方法として植林を目的とする地上権が設定された場合には、入会権がその限度において制限を受くべきものと解すべきであり、入会権に対する急迫不正の侵害が行われたとか、これに対する正当防衛が成立するとかの所論が失当であることは勿論である。(江上芳雄 木本繁 山田忠治)

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